新総裁に選ばれた高市総理の手によりアニメやゲーム等のオタク文化が全面的に日本から淘汰されつつある中、ここぞとばかりに野党が打ち出した法案はこの国のゲーマーを闇へと引き摺り込む邪悪なものだった。
その法案の内容は『ゲームの腕前に応じて人間としての価値が下がる』というもの。
野党はマイナンバー制度を悪用し日本人のゲームセンスを一方的に収集し続けていたのだ。
ゲーム文化を廃れさせたい高市総理の思惑と見事合致し、この法案は即刻可決される事となった。
それからというもの、各ゲーム界隈は荒れに荒れた。
その中でも特に顕著だったのは、日本で圧倒的な流行を見せていたAPEXである。
このゲームでは実力がゲーム内で区切られており、上位の者にはより正確な経済的制裁が加えられた。
正確に言えば、ブロンズⅣより上のランクに上がっていく度に国が課す全ての税金が50%ずつ上昇する。
更に過去にマスター・プレデター経験がある者に対しては、全ての事象において基本的人権を無視すると発表された。
こうしてストリーマーやプロゲーマーと呼ばれる人間達は、一気に人間の底辺へ転げ落ちていく事になる。
少し経った頃。
超高額の税金を納めきれなくなったプロゲーマー達は家を「差し押さえ」という名目で取り壊され、路地裏や公園を点々としていた。
謂わゆるホームレスと化した元プロは何とか定住出来る公園等を見つけて現状の打破は成功していたように見えたが、この法案が可決される前から住所不定だったホームレス達は『自分達より価値が下の人間が出来た』という昂りから隠れ家を荒らしまわり、その住居からプロを強制的に追い出すのだった。
そしてこの突貫工事とも言える法案の致命的欠陥が、徐々に徐々に明らかになってくる事になる。
というのも、この法案はランクによって規制度合いが強くなっていく事から以前『カジュアル専』と呼ばれていた万年ブロンズ判定のプレイヤーが突然その地位を確立していったのだ。
友人に誘われて一度だけプレイした等の理由で規制を喰らうというような不慮の事故を防ぐ為に、ブロンズは未プレイの人間と同様に規制は一切加えられなかった。
このカジュアル専は、規制こそ掛かっていないが万年シルバーのゲームセンス皆無なプレイヤーより腕前が上という事は明白だった。
一気に人間としての頂点に押し出されたカジュアル専達は、この機会を逃すまいとある計画を実行に移す。
その計画とは、以前プロゲーミングチーム・Crazy Raccoonの事務所があった廃墟にてプロを利用した裏カジノの営業を開始するというもの。
ここに既に収容されていたプロやストリーマーは、不安には思いながらも定住できる収容部屋と食事が提供されるという安心感からすこし安堵していた。
しかし人権が剥奪されたプロ達にとって、このカジノはそう甘くは無い。
裏カジノ開場当日。会場には既に存在を知ったカジュアル専が列を成しており、大盛況と言っても差し支え無いだろう。
そんな中、遂に賭場が開かれる。舞台は射撃訓練場での1on1だ。
司会「記念すべき第一回戦の試合は…これだ!」
両選手の名前が開示され、スタジアムに対戦する2人が上がる。
モニターでこの勝負でベットされた賭け率や賭け金の合計がリアルタイムで加算されていく。
司会「それでは早速スタート!と言いたい所だが…今からやる対戦はプレデター対マスターだ!そんな実力差で公平な勝負が出来ると思うか?思わないよなぁ!?」
熱狂しているカジュアル専達は、プレデター側にハンデを背負わせろと怒号を飛ばす。
司会「そこでだ!各選手が使用する武器とレジェンドを我々で決めさせて貰った!」
このハンデこそが、この裏カジノの真髄である。
司会「プレデターって言うのは最上位勢の事だろぅ?じゃあどんな装備でも勝てるよなぁ!」
会場は司会の煽りによって一層盛り上がる。
司会「じゃあプレデターの方はワットソンを使え!武器は…P2020一丁だ!フルカスタム!どうだ?フルカスタムだぞ?良かったじゃねぇか!なぁ!」
困惑するプレデター。会場に目を向けると、自分を見て気持ち悪いくらいにニヤニヤと嘲笑うカジュアル専達の顔が見えた。
司会「そしてマスターは301フルカスタムだ!使用キャラはホライゾン!あぁあと言い忘れてたが、この試合は戦術アビリティの使用が許可されてるからな!」
プレデター側は全てを察した。この勝負は自分を陥れる為だけに開かれた催しなのだ。
結果は当然、プレデターの敗北だった。
司会「あぁーっと!どうしたんだプレデター!本来マスターより強いハズなんだがこんな僅かなハンデで下ってしまったー!こりゃあもしかして代行だったかぁ!?ハーッハッハッ!」
対戦したマスターはこちらに視線すら向けず、控室へ戻っていった。
司会「あーあ!折角お前に賭けてくれた人が怒ってるぞ?こりゃあお仕置きが必要だなぁ!」
司会がそう言うと、自分に賭けて怒っているらしい巨漢が近づいて来た。
司会「今回の『お仕置き』は…そうだな、じゃあEVA-8を訓練場の一番遠い的に全弾命中させるまで終わらないってのはどうだ!」
盛り上がりは最高潮に達した。観客はこれを目的で見に来た、というのがこちらにも容易に分かる程の熱狂である。
司会「8回失敗したらリロードごとにそこの巨漢がプレデターを殴り付けるぞ!一定時間撃たなかったりしても同じだ!でもこんなお仕置きすぐ終わるよなぁ?だって『プレデター』なんだから!」
当然達成できる訳も無く、過去のプレデターは観客に爆笑されながら気絶するまで顔面を殴られ続けた。
こうして広まった元プロ・ストリーマーを痛ぶる行為は警察の黙認を後押しに、完全な娯楽としての地位を確立した。
一定の間隔で廃墟から放り出される変死体は、周囲の住人から気味悪がられたという。